「人を育てなくてどうするんですか?」

 

それは長年に渡り「木」と共に生きる方のお言葉でした。Beleaf+で使わせていただく家具を提供して下さる西川バウム合同会社(以下、西川バウム)の代表社員、浅見有二さん。

浅見さんの経歴は色々。飯能市選挙管理委員長をお努めになられたこともあるのですが、なんといっても本業は飯能市の名産、西川材となる良質のスギ、ヒノキの森を守り、木のぬくもりをみなさまにお届けする事にあります。過去には幼い子どもたちが無垢の木と触れ合いながら育つよう、幼稚園や保育所むけの家具をプロデュースしたこともおありです。

その西川材が脚光を浴びるようになったのは今は昔の江戸時代。「火事と喧嘩は江戸の華」なんて言葉があるくらい、かつての江戸・東京は火事と喧嘩が多かったというのはおなじみの話。江戸に集うは大勢の火消しと大工。必然的に威勢のいい独り者の若い野郎が町にあふれます。そしてもちろん江戸っ子の流儀を通し、宵越しの銭を持たぬようきっちり酒代にはたいて、いい心持で床に就き、寝たばこでしくじってまた火事。なんて無限ループもあったとか無かったとか。

ここ飯能は、かつて世界最大の都市へと発展を遂げた江戸の、大工衆のご用達の地となりました。良質のスギとヒノキの産地として栄え、西の川から流れてくる材木として、江戸っ子から「西川材の森」と呼ばれるようになったのです。

「八っつぁん、てめぇが頼んでた材木が来たぜぇ。」
「なんだい熊さん、もう来たのかよ。早えーなぁ。」
「ったりめぇだ。オレんとかぁ西川材だぜぇ?裏庭みてぇなもんでい。」
「ったってよぉ、昨日頼んだばっかじゃねぇか。てやんでえ。ちったぁ休ませろよ。」

なんて会話もあったかもしれません。

時は流れ、江戸から明治、大正、昭和、平成、そして令和。近代から現代へ、加速する科学技術の進歩の中で、木材の需要は急激に衰えていきました。山を持っているだけで大儲けできた時代は終わり、材木商は姿を消し、今、西川の森には、間引かれた木々が行くあてもなく横たわり、朽ちていくのを待っています。林業の存続自体が危ぶまれ、人の手の入らなくなった里山は、その生態系へも影響を及ぼしています。西川バウムの活動は、林業の存続への挑戦であり、人々が忘れかけている木のぬくもりを伝えることです。

「僕たちの先代は将来を見据えて来なかった。そのツケが今、回ってきているんですよ。」

浅見さんがおっしゃるのは、数十年前から始まった、大きな社会の変化に伴う需要の変化に目を向けず、昔ながらの林業を続けたせいで、木が飽和状態になっているという事のようです。かと言って、木を切り倒す、山から降ろす、製材するって大変な作業ですから、「余っているからただで配るよ」という代物にもできません。

「いまだに昔ながらの良い木にしか興味を示さない工務店も多い。色の違いや節目のある木材を個性的だと好む人間がいる事に気づいていないのです。」

意外と忘れがちなのですが、そもそも木材、「木」って生き物です。

お野菜やお米が一年と待たずに収穫を迎えるのと違い、小さな苗木が木材として活用できるまでに育つには、長い歳月とこまめな手入れが必要です。先代が後先見据えずに植えた木でも、その一本一本に、人と共に育ち、人の世代をまたいだ記憶が詰まっています。

間伐材と聞くと、まだ若くて細っこい木というイメージかも知れませんが、樹齢何十年と経っているものも多くあるのです。ただ土に返すのは気の毒でもあり、もったいない。

浅見さんは、人が、無垢の木のしっとりと柔らかい手触りや、歴史の詰まった木目の面白さ、立ち込める森の木の香りに囲まれて、自然の癒しを感じながら暮らせることを願っています。昔ながらの木の価値観を捨て、新しい間伐材の利用法や木の個性を生かした家具など、現代のライフスタイルに見合う活用法を模索し、奮闘の毎日を送られています。

そんな西川バウムの取り組みのひとつに、行き場を失った間伐材を利用した「はしらベンチ」があります。市立図書館に、飯能銀座に、あけぼの公園に、生活の木に、色んな所に置かれています。きっとみなさんも知らず知らずのうちに腰かけているはず。

このベンチはなかなかアイデアもので、切り出したばかりの香り豊かな無垢の角材を乾燥させる間、ベンチとして利用しているのです。その後はそれぞれの目的に合わせて使用でき、ベンチのままでも良し、無垢なので薪として暖炉で燃すこともできます。

また、現在進行形で進めているプロジェクトに、埼玉ハンノウ大学とコラボして、キッズ向けのお教室と言うのがあるのですが、子どもたちが木のぬくもりに囲まれて心豊かに育つ機会を増やそうと、いろいろな方面から力を貸して下さっています。そのお話の最中聞こえてきたのがこの言葉。

「人を育てなくてどうするんですか?」

筆者なりの解釈でありますが、これは、子供たちが自然の恵みを感じながら育つ環境を整えるのは大人の責任、と言う意味だけではなく、新しい価値観を林業の中で育てる、という意味も含まれているのだと思います。

2020年は至るところで「新しいライフスタイル」と連呼されました。守るべきは何か、変わるべきは何か、答えは人それぞれなのでしょうが、考える事を止めない人でありたいものです。

そしてBeleaf+も。

非常に多忙な浅見さんにあれやこれや、こんな家具作れませんか?と無理難題をお願いしている真っ最中であります。蔵の中に、西川の森で育った木のぬくもりをちりばめ、癒しのオフィス&カフェスペースを実現させたいです。

それにつけてもです。浅見さんは製材所もご案内くださって、とてもたくさんの事を教えてくださったのですが、そんなお話を聞きながら、筆者は「蔵」2階で見た立派な「梁」に思いを馳せてしまいます。実はあの「蔵」織協より古いんじゃないか、という話もあり、築100年以上かも?という事は100年前に大木だったあの梁の木は200年前に植えられたのかも?日本中の男性諸君がマゲを結っていた時代の誰かが山に植えたんだろうなぁ。「木」ってロマンがありますね。木製品を見る目が変わってしまいました。

みなさんも木製品に触れる時、その「木」はいつどこで生まれ、誰に育てられたのかしら?なんて考えてみると面白いかもしれません。

西川バウム合同会社 https://www.nishikawa-baum.jp/